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音楽用超広帯域単一指向性コンデンサマイクロホン~CUX-100K~ (JAS ジャーナル 2020年9月号)

JAS Journal 2020 Vol.60 No.5(9 月号)

音楽用超広帯域単一指向性コンデンサマイクロホン
~CUX 100K~

三研マイクロホン株式会社 技術部
盛田 章、金子 孝、千葉 裕

概要

ハイレゾと呼ばれる広帯域な音楽収音において、100kHzまで収音できる全指向性マイクロホンは、三研マイクロホンではCO-100Kとして、すでに開発、販売している。しかし、単一な指向性をもつ高音質な超広帯域マイクロホンは少なく、より高品質なマイクロホンの開発が望まれていた。ここに100kHzまで収音できる超広帯域指向性マイクロホンを開発したので報告する。

ABSTRACT

We Sanken Microphone had already developed and sell 100kHz bandwidth omni mode microphone, named CO-100K, for “High Resolution recording”. However high-quality wide range cardioid mode microphones were still rare around the market and eagerly demanded. Here we have developed and report a new multi mode microphone, applicable to super wide range recording up to 100kHz.

はじめに

CUX-100K可聴域外 超高周波の音が可聴域の音に影響して音色を変えるとの説があり音楽収音を超高域までしたいという要望が聞かれる。また、将来のことを考え、アーカイブスでは、なるべく超高域まで伸びた広帯域な音を収録保存しようという動きがある。三研マイクロ ホンでは、2004年に100kHzまで伸びた音楽用全指向性マイクロホンCO-100Kを発売し、好評をいただいている。さらに、楽器の近接収音では他の楽器のかぶりを抑えるため単一指向性の超広帯域指向性マイクロホンの開発が望まれていた。ここでは、100kHzまで単一指向性を持たせた超広帯域指向性マイクロホンを開発したので紹介する。

1. 構成

CUX-100K
図1 マイクロホンカプセルの構成
図1のカプセル構成図に示すように、主要帯域を受け持つマイクロホンと超高域を受け持つマイクロホンの2way方式とした。2way方式のマイクロホンは、音楽用マイクロホンとして弊社が実用化し販売している「 CU-41,CU-44,CU-51 」があり、その設計製造技術のノウハウを生かしている。このマイクロホンでは、2つのカプセルの出力を合成するときのクロスオーバー周波数を10kHzとしている。10kHzまでの主要帯域には新しく開発した長方形振動膜を持つ単一指向性カプセル使用し、超高域 (10kHz~100kHz)には、CO-100Kに使用しているカプセルを用いている。なお、CO-100K のカプセルは全指向性ではあるが、後述 するように10kHz以上では音波の回折やその他の影響で単一な指向性がつくので、これを利用している。

また、このマイクロホンは、単一指向性(Far)、若干高域を減衰させた単一指向性(Near)と全指向性の3パターンに、収音対象、状況に応じて切り替えられるようになっている。楽器の近傍では超高域は空気減衰が少ないので、若干高域を減衰させたほうが自然に聞こえるという評価があり、単一指向性に加えて、若干高域を減衰させた単一指向性のモードを持っている。

2. 長方形振動膜を有する単一指向性マイクロホンカプセル

2-1. 長方形振動膜の利点

主要帯域を受け持つマイクロホンカプセルの振動膜に長方形を採用した理由として、①長方形の振動膜を使用している弊社のCOS-11Dの長期にわたる販売経験からユーザの間で、音が良い、音の立ち下がり切れが良いという高評価をいただいている。また、この主要帯域を受け持つマイクロホンの開発過程において、社内でも現行の円形振動膜をもつ音楽用マイクロホンと聞き比べで音質的に遜色のない良い結果を得ている。この理由として、円形振動膜と比較して分割振動に起因した振動膜に過渡応答の違いによるものではないかと筆者は考えている。②超高域を受け持つカプセルと合成したとき音響的つながりをスムーズにするため、主要帯域を受け持つカプセルは、超高域を受け持つカプセルになるべく接近させて配置したい。さらに、主要帯域を受け持つカプセルは超高域カプセルに接近しているため、バッフル板として作用し周波数特性に乱れを生じさせるので、形状をなるべく小さくしたい。しかし、必要感度を得るには、ある程度の振動膜面積が必要である。円形振動膜では、面積を広げると直径が大きくなる。これに対し、長方形振動膜では、円形振動膜と同等の面積においても、幅を狭く設計することができるので超高域カプセルに近接しても、その接する近傍の面積を小さくすることができ、超高域カプセルの振動膜へのバッフル板としての影響を比較的低く抑えることができる。

これら2点の理由で長方形振動膜を採用した。

2-2. 長方形振動膜のマイクロホンの特性

単一指向性コンデンサマイクロホンの感度V/Pの計算式[1]は、

ただし、

また、単一指向性コンデンサマイクロホンの低域限界周波数fLは、

そして、安定度μは、

目標感度を得るため、式(1)のsを固定値として考える。収音帯域をある程度広くとるためには、低域限界を低くしたい。式(3)から、sは固定値だからs0を小さくしなければならない。sを一定値に保つため、式(2)で膜の制動を受け持つr0を自由に変化することは難しいと考えると、背部気室に起因するs1を調整し一定に保つことになる。また、s0は安定度μにも影響する。式(4)からs0を小さくすると安定度が低くなり悪化する。安定度の悪化を抑えるためには、dbを大きくするか、Ebを小さくすることが必要である。しかし、db、Ebとも式(1)から分かるように感度に影響を与える。感度はdbに反比例し、Ebに比例する。それに対し、安定度は式(4)から、dbの3乗に比例し、Ebの2乗に反比例する。このことから、なるべく感度に影響しないように安定度を調整するには、dbを変化させることが望ましいことがわかる。低域限界を目標値にするためs0を小さくし、そのため安定度が下がった分、dbを大きくする。dbを大きくすると、感度が減少するので、感度の目標値を維持するため振動膜面積Sを大きくしなければならない。また、sは高域限界周波数にも影響するので注意が必要である。

CUX-100K
図2 新開発長方形振動膜を有する
単一指向性マイクロホンの周波数特性
この新開発の長方形振動膜を有するマイクロホンでは、超高域を受け持つCO-100Kのカプセルの直径10.5mmからこのカプセルに近接しておかれることを考慮しなるべく影響を与えないようにカプセルの幅を9㎜として 、振動膜は横6.2mm、縦14mm 、面積S=86.8mm2とした。

振動膜の等価スチフネスs0、電極間間隔db、バイアス電圧 Eb等を最適化設計した結果、感度28dB程度と良好な値となり、図2の周波数特性を得た。

3. 超高域で全指向性マイクロホンでも指向性が得られる理由

CUX-100K
図3 CO-100Kの指向周波数特性
この2wayの指向性マイクロホンでは、10kHz以上で、全指向性のCO-100Kのマイクロホンカプセルを使用している。これは、図3に示すように、10kHz以上では全指向性カプセルでも指向性を持つからである。指向性のあらわれる要因を次に述べる。

3-1. 回折効果による指向性

CO-100K では、実用に供する感度を持ちかつ、 100kHz までの収音帯域を得るため、振動膜面での回折によるピークと機械振動系の高域共振を組み合わせて使用している[2][3][4]。このため10kHz~100kHzの帯域では、回折効果により指向性がつくこととなる。

CO-100Kマイクロホンカプセルをカプセルの直径と同等の10.5mmの円柱の剛体と仮定して、その振動膜面中心での回折係数を参考文献[5]に従って計算すると図4のようになる。

CUX-100K
図4 円柱剛体の回折係数
このグラフに示すように、10kHz以上で角度により回折係数が異なり、振動膜を押す音圧が角度にともなって変化することがわかる。このことは、10kHz以上で指向性がつくことを意味する。しかし、回折係数は90°、180°で振動膜面では反射がなくなり0となる。回折効果による音圧の変動がなくなる。このことは、マイクロホンの機械振動系の特性がそのまま出力に現れると考えられる。

全指向性コンデンサマイクロホンは、機械振動系で周波数特性は決まり、収音帯域はスチフネス制御範囲となる。機械振動系を単一共振系とすると、スチフネスとマスで決まる共振周波数が高域限界を決める。周波数特性は、共振周波数まで平坦な特性で、共振周波数では制動抵抗により決まる尖鋭度Qで変化し、その後12dB/octの傾斜で減衰する特性となる。CO-100Kのマイクロホンカプセルでは、CUX-100K
図5 振動膜に加わる瞬時音圧による合成音圧を
計算するための説明図
共振周波数を66kHz付近に設定している[2]ので、回折効果だけにより指向性がつくと考えると、9 0°、180°では回折効果の影響がなくなるので、66kHz付近まで平坦でその後減衰する特性 とならなければならない。しかし、実測したCO-100Kの周波数特性図3でわかるように、90°、180°では、20kHz付近から減衰する特性となる。このことは、回折効果だけで指向性は決まっていないと言える。

この原因について次のように考える。回折効果は物体を剛体とし、その表面の音圧の上昇を考えている。回折係数は音波の到来する面で全反射するとして計算する。その表面の音圧の上昇を考えている。回折係数は音波の到来する面で全反射するとして計算する。しかし、マイクロホンの振動膜は剛体ではない。瞬時音圧を考えると振動膜の位置によりその圧しかし、マイクロホンの振動膜は剛体ではない。瞬時音圧を考えると振動膜の位置によりその圧力は異なる。力は異なる。振動膜の直径が音波の波長より大きくなる超高域では、音波の位相差で振動膜の位振動膜の直径が音波の波長より大きくなる超高域では、音波の位相差で振動膜の位置によりプラス側に押される部分とマイナス側に押される部分が生じ合成音圧が振動膜に作用す置によりプラス側に押される部分とマイナス側に押される部分が生じ合成音圧が振動膜に作用すると考えられる。また、振動膜面で反射した音波は、回折効果として振動膜に作用する。このると考えられる。また、振動膜面で反射した音波は、回折効果として振動膜に作用する。この22つの作用により、全指向性マイクロホンでも超つの作用により、全指向性マイクロホンでも超高域では指向性が得られるものと考えられる。高域では指向性が得られるものと考えられる。

3-2 振動膜面の位置による瞬時音圧による指向性

図5に示すように、円形振動膜の軸に対してθの角度から音波が到来すると仮定する。その時振動膜に加わる圧力は、

CUX-100K
図6 振動膜に作用する合成音圧
式(5)を用いて、CO-100Kの振動膜の直径8.6mmであるからr=4.3として、Fの指向周波数特性を計算すると図6となる。この図のように、0°では、振動膜面での音波は同相となり圧力の変化はないが超高域では音波の到来方向によって指向性がつくことがわかる。90°においても20kHz過ぎから急激に減衰し、50kHz付近にディップを形成し、再び上昇し65kHzでピークとなりその後、ピーク、ディップを繰り返しながら減衰していく。CO-100Kの90°の周波数特性と傾向は一致しており、この要因と(4-1)項で述べた回折効果が相互に作用して超高域での指向性を持つのではないかと考えられる。

4. 新開発のCUX-100Kの特性

このマイクロホンは、図2に示した主要帯域を受け持つ単一指向性マイクロホンカプセル出力と図3のCO-100Kのカプセル出力を合成している。

図7のブロック図にその構成を示す。単一指向性はCO-100Kのカプセル出力にカットオフ周波数10kHzのハイパスフィルターを通し主要帯域用マイクロホンカプセル出力と合成し広帯域単一指向性特性を得ている。

2項でも述べたが、このマイクロホンは3つのモードに切り替えられるようになっている。
①全指向性(Omni)モードは既発売のCO-100Kの特性で、主にホールトーンなどの楽器の音が混じり合ったサラウンドの音の収音に使用する。音源からはかなり離れて設置する。
②単一指向性(Near)モードは、若干高域を減衰させた特性を有しており、高域減衰の少ない楽器の近傍での収音を目的にしている。
③単一指向性(Far)モードは、100kHzまで広帯域単一指向性特性を有しており、ホールの3点吊りなど楽器からある程度離して収音することを目的としている。

図7のブロック図にその構成を示す。単一指向性はCO-100Kのカプセル出力にカットオフ周波数10kHzのハイパスフィルターを通し主要帯域用マイクロホンカプセル出力と合成し広帯域単一指向性特性を得ている。

図7のブロック図にその構成を示す。単一指向性はCO-100Kのカプセル出力にカットオフ周波数10kHzのハイパスフィルターを通し主要帯域用マイクロホンカプセル出力と合成し広帯域単一指向性特性を得ている。

図8~図10に3つのモードの周波数特性の実測値を示す。また、図11、図12に各モードの指向性パターンの実測値を示す。


図8 全指向性(Omni)モードの周波数特性

図9 単一指向性(Near)モードの周波数特性

図10 単一指向性(Far)モードの周波数特性

図11 全指向性モードの指向特性

図12 単一指向性モードの指向特性

5. まとめ

図10に示すように、100kHzまで良好な単一指向性を有する超広帯域マイクロホンが実現できた。また、このマイクロホンは、収音目的に応じて3つのモードに切り替えて使用することが出来る。図13にCUX-100Kの外観図、表1にその仕様を示す。いろいろな音楽収音にご使用いただいて、ハイレゾ音楽収音再生分野のさらなる発展を期待している。発売は11月を予定している。


図13 CUX-100Kの外観
図12 単一指向性モードの指向特性
変換機 DCバイアスとバックエレクトレットコンデンサ
指向性 単一指向性(NearとFar)と全指向性
周波数特性 20Hz~100kHz:単一指向性(Far)と全指向性
20Hz~50kHz:単一指向性(Near)
感度 40mV/Pa(-28dB [0dB=1V/Pa])
固有雑音の入力換算 17dBSPL:単一指向性
等価音圧レベル(A特性) 22dBSPL:全指向性
最大入力音圧レベル
(1% THD)
132dBSPL
出力インピーダンス 140Ω
電源 +48V ファンタム電源
消費電流 4.5mA
質量 207g
寸法 148mm×30mm

参考文献

[1] 溝口:指向性コンデンサマイクロホンの小型化の設計,日本音響学会誌,
Vol.31,No.10,PP593 601(Oct.1975)
[2] 小野:“マイクロホンの広帯域化”, 日本 音響学会誌 Vol.64,No.11,pp.656 660(2008)
[3] 三研マイクロホン㈱ :“音楽収音用超広帯域マイクロホンの開発”,日本音響学会誌,
Vol.64,No.11,pp.682 685(2008)
[4] 小野ほか:“音楽収録用超広帯域マイクロホンの開発 ”,NHK 技研 R&D,No.126,
pp.26-36(2011)
[5] G.G.MULLER,R.BLACK and T.E.DAVIS The Diffraction Produced by Cylindrical and Cubical Obstacles and by Square Plates, J.Acoust.Soc.Am.Vol.10,No.1,pp.6-13(1938)

執筆者プロフィール

盛田 章(もりた あきら)
1977年熊本大学大学院電子工学専攻修了。同年NHK入局。岡山放送局を経て、1981年NHK総合技術研究所に異動し、音響機器の研究に従事。2010年NHK退職。同年、三研マイクロホン(株)に入社しマイクロホンの開発に従事、現在に至る。日本音響学会会員
金子 孝 (かねこ たかし)
1980年電気通信大学電子工学科卒、同年NEC入社。半導体集積回路の開発、応用技術に従事。2012 年ルネサスエレクトロニクス退職。翌年、三研マイクロホン(株)に入社しマイクロホンの開発に従事、現在に至る
千葉 裕 (ちば ゆたか)
1971年茨城大学工学部電子工学科卒業。同年日本ビクター(株)入社。プロ業務用映像機器や音響機器の開発設計に従事。2007 年日本ビクター退職 。同年三研マイクロホン(株)に入社しマイクロホンの開発設計に従事し現在に至る